「……解読結果は間違いないのだな?」
レジスタンスたちの中で、リーダーと呼ばれる男が硬い声を上げる。その言葉の裏には隠しきれない緊張がにじみ出ている。
その言葉を受けて、数人のレジスタンスメンバーが答えを返す。
「解読は、何度も確認しました。間違いありません……間違いであって欲しいのですが」
「諜報員からも、例のDEMを見かけたと言う報告が上がっています」
レジスタンス本部の奥にある、小さな作戦指令室。
押し殺したような空気の中、不細工な通信機だけが音を立てている。
機械種族DEMの通信を傍受するために作られた、通信機の試作品。
調整を繰り返して、DEMの通信を聞き取れるようになった矢先に、一つの通信が入った。
解読できた単語の中にあったのは、夜間。攻撃。ウェストフォート。軍艦島の集落……。
ウェストフォートだけではなく、軍艦島の難民キャンプも襲撃目標になっている事は間違いない。
「疑う余地はない。守りはかためねばならん。……軍艦島の防衛に人を裂く余裕はあるか?」
リーダーの言葉に、周囲のレジスタンス戦士達は暗い顔つきになる。
負傷者も多く、疲労は取れず、今の戦力では、ウェストフォートを守ることすらおぼつかない有様だ。
「足りなかったら、どこからか借りてくるしかない。……そうだろう、アニキ?」
そう発言したのは、この部屋の中では最も年若く見えるドミニオン。
リーダーは、その言葉を聞き、小さくうなずく。
「そうだな。借りられる力は、どんなものでも借りておきたい時だ。
……そうか、お前と同時期にこっちに来た冒険者たちか。確かに腕は立ちそうだが……」
その言葉に、周囲は色めき立つ。
「我らレジスタンスだけではなく、余所者の力を借りるだと!」
「確かに、DEMよりはマシだろうさ。だが、本当に信用していいのか……?」
小さくはない不満と隠し切れない不信をあらわにし、騒然とするレジスタンスメンバー。
彼らを目線だけで黙らせると、リーダーは言葉をつなげる。
「……俺達と同じドミニオンはまだ分かる。他の種族でも、レジスタンスに来てくれた連中もいる。
オレも過去、信じられん位おせっかい焼きのエミルや、むかつく奴だが信用できるタイタニアにあった事もある。
そういう奴らなら信用してもいいし、力を貸してくれるかもしれん。
だが、他の奴ら……他のエミルやタイタニアたちは、そもそも、俺達に力を貸してくれるのか?」
「わからない……だけど、それでも、頼むしかねぇだろう。オレで済むなら、頭くらい何度でも下げてやるよ」
短い静寂の後、リーダーが号令を発する。
「……よし、エミルの世界に戻って、力を貸してくれる奴を探せ。こっちは直前まで防衛体制を整える。
皆、昔の因縁など、今は忘れてしまえ。DEMと戦う奴は、皆俺達の仲間だ!」
繰り返す戦いに、誰もが疲弊していた。尽きることのない敵に、誰もが焦っていた。
軍艦島に、ゴールデンブリッジに現れたDEMと、彼らにコントロールされたモンスターの群れ。
その圧倒的な数に、冒険者達やレジスタンスの戦士達は文字どおり圧倒された。
倒しても、倒しても、敵は再び現れる。まるで、傷や痛みを知らず、命と言うものを知らない機械のように。
それでも、冒険者達は心折れずに戦い続けた。
異世界の危機を救うため、故郷の危機を救うため、友達の手助けをするため。
様々な理由はあれど、「誰かを助ける」という、ただそれだけの理由で、冒険者達は戦いに身を投じた。
何回目なのか分からないくらいの襲撃の後、ようやくDEMの襲撃は止まった。
敵の戦力がなくなったのか、それとも、新たな作戦の前の一時的な静寂なのか、知る者はいなかったが、
これでひとまずの戦いが終わり、防衛が成功した事だけは理解できた。
夜明けを数時間後に控えたウェストフォートに、ひときわ大きな歓声が上がった。
おそらくは、軍艦島でも同じように歓声が上がっているだろう。
万が一の襲撃に備え警戒にあたる者を除いて、全ての冒険者と全てのレジスタンス戦士が喜びを交わしていた。
この戦いを生き延びたことに。この戦いに勝利したことに。
そして、この戦いから、戦う力を持たない人々を守り抜くことが出来たことに。
種族の垣根は取り払われ、肩を組み、歌を歌い、勝利を祝う姿がそこにあった。
レジスタンス見習いと、タイタニアの冒険者が肩を組んで歌を歌っている。
レジスタンスと冒険者達が戦術に関する談義をくりひろげている脇で、エミルの冒険者がドミニオンの傭兵達とゲームに興じている。
気がつけば、誰かが楽器を弾き鳴らし始めていた。冒険者達だけではなく、ウェストフォートの商人達や住人達、レジスタンスの訓練生達が輪になって歌い、踊っていた。
たとえ、それがひとときの勝利だとしても、共に戦った仲間と喜びを分かち合う宴は、夜明け近くまで続く。
「……さて、今回はひとまず勝ったな」
レジスタンス本部の作戦司令室で、椅子に深く腰掛けたまま、リーダーはつぶやく。
建物の外、街の中からにぎやかな声が聞こえる。どうやら、戦いの勝利を祝う宴が始まったようだ。彼の前には、この戦いの中で発生した都市の防壁の損害状況報告や、新しい防衛システムの図面が広げられている。
彼の周囲には数名の仲間がおり、今後の防衛手段について相談を続けている。
だが、彼らは意識していない。いつの間にか、ドミニオン世界のレジスタンスの中枢であるこの部屋に、当たり前のようにエミルやタイタニアが混じっていることに。
「聞いてくれ。おそらく、次は都市内部に侵入されることは、ほぼ間違いない。
だが、今回冒険者達がもたらしてくれた勝利は、俺達に貴重な物を与えてくれた。
時間。そう、シュタイン博士がウェストフォートに仕掛けを施すための貴重な時間を、俺達は得ることが出来たんだ」
そういうと、机の上に広げられていた図面を示し、周囲に提示する。
「戦いは水物だ。このウェストフォートが奪われる事もあるかもしれん……いや、いつかはあるだろう。
あのアクロポリスとて、DEMに占領されてしまったんだ。絶対、と言うことはない。
だが、重要な部分は隔離しておくことで、都市を復旧させることが出来るようになった。
荒野の中から、町を作り直すことはしなくてもいい。
住人の避難は容易になったし、ウェストフォートが占領されても、取り返せばすぐに都市機能が復旧できる。
何度負けてもいい、何度逃げてもいい。最後に負けなければいい、最後に戦場に立っていればいい。
いいか、俺達は決して諦めない。何度でも、何度でも立ち直る……絶対にだ!」
周囲を見渡し、リーダーは宣言する。仲間達は力強くうなずき、それぞれの持ち場へと戻っていく。
小さく開いた窓の向こう、ウェストフォートの街中から、ひときわ大きな歓声が響いた。