「さて、ここまではわかったが……」
うららかな陽気のファーイーストシティ。
役場の資料室から持ち出した町の歴史書を眺めながら、役場のおじさんは盛大にため息をつきます。
「この町に関係がある有名人として、この盗賊団を見つけ出したのはいいものの……
何か、何かこの伝承を使って、この町の名を高めるいいアイディアは無いものか……」
資料をながめながら、ふと去年の事件を思い出します。
「そうだ、盗賊団といえば去年はひどい目にあったなぁ……」
去年は、「伝説のシルバーカーネーション」を売りに町おこしをしようとしたものの、見事に失敗。
ミスを隠すために色々と画策したものの、それらは全て冒険者によって解き明かされてしまったのです。
今になって思ってみれば、知恵の限りをつくして謎を作り、解き明かされまいとした事も良い思い出ですが……
「まてよ。謎解きってのは面白いんじゃないかね……いいね、いいんじゃないかねぇ!」
おじさんは大きな声を出して立ち上がりました。
「去年は自分のミスを隠すために隠したが、今年は皆を楽しませるために隠せばいいんじゃないか!
そうだ、それだ! 謎解きを主題にして宝探しをすればいいじゃないか! いやぁ、私は天才ではなかろうかねぇ!
……いかん、だがこのままでは時間が足りないねぇ。問題の数は何とかするとして……むむむ。
そうか、そうだよ、頼りになる人たちがいるじゃないか! いやいや、やはり私は天才ではなかろうかねぇ!」
再び興奮してブツブツとつぶやきだす役場のおじさん。年季の入った手帳を片手に、無線機へと手を伸ばします。
「あぁ……あー、もしもし。フシギ団のミーシアさんはそちらかね……?」
会話を終えると、おじさんは机に向かい、すごいスピードで一枚のチラシを書き上げます。
ファーイースト観光役場とフシギ団が君の知性に挑戦!
わらべうたに隠された謎を解き明かし、
伝説の義賊“月のかけら盗賊団”の隠し財宝を見つけ出せ!
さぁ、財宝を求め、ファーイーストに集いたまえ!
出来上がったチラシの文面を見てにんまりとした後、おじさんはチラシを片手に部屋から駆け出していきました。
◆◆◆◆
手伝いを頼んだフシギ団の面々も到着し、数日後には彼らの協力のおかげで問題も仕掛けも完成。
仕掛けを施すため、ふんぞり返るおじさんの指示の元ファーイーストの街中を走り回るフシギ団。
そんなフシギ団の面々や、時折観光役場から漏れ出すおじさんの高笑いを、街の人たちは興味深げに……
あるいは「またあのおじさんが何かヘンな事を始めたよ」といいたげに見守っています。
時間ギリギリに準備も終わった、宝探しの実施前日。
役場のおじさんは、準備が無事終わったという満ち足りた疲労感に包まれ、机に突っ伏したままいびきをかいていました。
……そのため、おじさんは気がつきません。
蒼く光る月光に照らされ、足音もたてずに動く人影があることに。
こっそりと役場や街中を忍び歩き、宝箱の隠し場所に侵入した人影があることに。
誰にも気づかれること無く、深夜の役場に侵入した人影があることに。
その人影は、懐から何かを取り出すと細工を始めます。
……静寂の中時間が過ぎ、月の光が角度を変え、広場にある学校の時計の針が新しい時を刻む頃。
人影は既にどこにも無く、静寂が辺りを包み……ただ空に浮かぶ三日月だけが、淡く光を投げかけているのでした。
……そして、朝がやってきます。
天気は快晴、人の集まり具合も悪くなさそうです。
目を覚ました役場のおじさんは、ひとつ伸びをすると、意気揚々と宝探しの準備を始めます。
果たして、謎の人影は何を仕掛けていったのか? 宝探しは無事に終わるのか?
雲ひとつ無い空の下、今年もファーイーストシティは騒がしくなりそうな予感がしています……。
そして始まった宝探し当日。ぽかぽかと暖かい日差しが町を照らしています。
ファーイーストの町は冒険者や、物見高い旅人など、様々な人たちでにぎわっています。
昼過ぎになり、わらべうたの歌詞から、どうやらかかしが怪しいと判断した冒険者が増えてきたようです。
しかし、間違ったかかしを調べて煙に巻かれていたり、暗号解読に悩む冒険者がピヨ4号を追い掛け回したり。
時々歓声が上がったり、悲鳴が上がったりと、宝探しは順調に進み、和やかな雰囲気で盛り上がっていました。
しかし、そんな中、役場のおじさんはただ一人、まるでこの世の終わりが来たかのように真っ青になっていました。
早くも最後の問題である宝箱の鍵をクリアした冒険者が、宝箱の中身が空っぽであるという報告をしてきたのです。
宝箱を隠した部屋には無線機を仕込み、宝箱を開けることができたらいきなり祝福をして驚かしてやろうと
待ち構えていたおじさんは、逆に、腰が抜けるくらい驚かされる羽目になりました。
しかも、宝箱の中にはご丁寧に“月のかけら盗賊団”を名乗る何者かからの挑戦状まで入っていたということです。
新しく参加する人に問題を出すという役割上、おじさんは役場から動けません。
人が尋ねてくるけれど、困っている顔を見せるわけにもいきません。
顔ではにこやかに笑おうと努力しながらも、役場のおじさんの頭の中は混乱し、煙をふきださんばかりになっていたのです。
もっとも、全て隠し通せているわけでもなく、だんだんと周囲の人たちはおじさんの態度を怪しんできているようです。
このままでは、宝が無い事が皆に知れ渡り、宝探しが中止になってしまいます。
おじさんの顔は、どんどんと血の気が引き、引きつっていきました。
そんなとき、先ほどの、初めに宝箱を開けた冒険者がやってきました。
冒険者はおじさんに一つの麻袋を差し出します。
袋を受け取り、中を見ると……おじさんの顔に、青い光がキラキラと照り付けました。
「うおっ!? こっ……これはっ!!」
そこには、盗まれたはずの宝物。
伝説の盗賊団が使っていたという「青い花と三日月」のペンダントが入っているではありませんか!
冒険者はなにやら複雑な表情をしていたのですが、切羽詰っていたおじさんはそれに気がつきません。
緊張の糸が切れかけた状態でも、宝探しの主催者としてごまかすだけごまかし、最後の勤め、賞品の授与を行います。
「は、はははは、な、なぁにを言っているんだ。こ、これは君を楽しませるための演技。そう、そうだよ。演技だったんだ!」
しどろもどろで言うおじさんを見る冒険者の目は明らかに疑わしいものを見る目になっていましたが、
おじさんには、それに気づけるほどの余裕はありません。
そして、役場のドアを開けて冒険者が外に出て行くと、おじさんは机にどっかりと腰を落としました。
「……つ、疲れた……!」
◆◆◆◆
「いやぁ、今回はやられたなぁ……」
宝探しも終わり、日常に戻ったファーイーストの街で、役場のおじさんは心地よい疲労感に包まれていました。
準備していた宝物は、今では存在しないはずの“月のかけら盗賊団”によって盗まれ、隠し場所に関するヒントが記載された挑戦状だけが、空っぽになった宝箱に残されていました。
落ち着いて考えれば、わざわざ挑戦状を残すこと自体がおかしいのです。
犯人が本当に宝を持ち去るつもりなら、ヒントなど残す必要が無いのですから。
冒険者が犯人を見つけ、取り戻してくれた宝物は、なぜかしっかりと補修されていて前よりピカピカになっていました。
想定していなかった四つ目の問題は、参加者に対するサプライズの演出として受け止められ、それに慌ててオロオロしている役場のおじさんの姿は、参加者や街の人達から迫真の演技として賞賛され、いまだに話題になっているのです。
「あれは迫真の演技じゃなくて、本当は全部本気で慌てていたんだけどなぁ……」
いまだに犯人の正体が分かっていなかったり、おじさんにとって謎の部分は多数残っているのですが、宝探し自体は好評のうちに終了しています。おじさんにとっては、それが達成できていれば、まずは良いのです。
「あぁ、今回でつくづく分かった。私はどうやら、犯人役か被害者役は得意でも、探偵役には向いてないようだ……
それにしても……ふぁ、眠い……」
その後、観光局員が書類を抱えて役場に入って来た時、役場のおじさんは椅子に座ったまま大いびきをかいていました。
一方、こちらはファーイーストの北、フシギ団の砦。
ガチャガチャと食器が音を立て、乾杯の音が響いています。
「……ってわけなのよぉう! あーっ、皆にも見せたかったわぁん! あたい達の華麗な活躍!」
「ヒントを出したり、仕掛け作ったり、色々大変だったっスよー!」
「うししっ! 今回はひどい目にはあわなかったよー。楽しかったー。」
一仕事終えて意気揚々と砦に戻ったミーシア一行は、近くにいた仲間達を集めて、どんちゃん騒ぎを繰り広げていました。
ミーシアたちの周囲に集まったフシギ団の団員達は興味深そうに聞くもの、遠くで聞き耳を立てるものと反応は様々です。
「それにしても、ミーシアさん。今回はずいぶんとおとなしかったね。暴れ足りないんじゃないかな?
それに、ペンダントの補修にも手間ひまかけているし……」
喧騒の輪から少しだけ離れて、ゆっくりとミネラルウォーターを飲んでいたクリムがミーシアに話しかける。
「あぁら、確かにあのおじさん、ふんぞり返ってあたいたちをこき使おうってのはちょっと嫌だったけどね。
でもまぁ、それだけで文句を言うほどあたいは器が小さく無いわよ?
あっちも余裕は無かったみたいだし、終わった後に礼を言ってきたから、一応感謝の気持ちはあったみたいだし。
それに、あのペンダントはちゃんと補修しないと、あたいが人に渡す気になれなかったのよぅ。
何せ、あたいは次期幹部の器なんだから、そこで手を抜くことなんかしてられないわよぉん! それに……」
「それに?」
ミーシアは小さく笑うと、答える。
「役場の裏から、慌てふためくおじさんの声は聞こえてたし。他にも、お返しならとっくに済んでるのよぉん」
「えっ、ミーシアさん、一体何をしたんスか?」
「あーっ、あたしも知りたいです! 帰りは一緒だったから、何もして無いですよね?」
「それは秘密よぉん。おぉーっほっほっほ!」
その頃、観光局員が居眠りしているおじさんを起こそうかどうか思案していました。
その時、椅子の背もたれに寄りかかって寝ていたおじさんの帽子が床に落ち……
観光局員は息を呑み、手にしていた書類は、ばさばさと床に散らばりました。
……観光局員の笑い声で目を覚ました役場のおじさんは、目の前で床に突っ伏し、
呼吸困難になりながら笑い転げている部下が何故笑っているのかよく分からずに、しばらく困惑するだけでした。
結局、おじさんが気がつくのは、それからしばらくたってからになるのですが……
……帽子を取ったおじさんの額には、大きく「ハズレ」と書かれていたのです。
終わり